新型コロナウイルス感染症の影響で、自宅にいる機会が増えた分、気を付けたいのは屋内での事故です。平成29年版高齢社会白書(全体版) 内の報告では、65歳以上の転倒事故は自宅で起きており、割合は全体の77.1%を占めています。
今回は自宅で起きる事故の中から骨折・転倒について注目しました。寝たきりに陥る原因では全体の1割程度ですが、脳卒中などの生活習慣病に比べると生活の中で対策しやすいリスクとされています。(※1) 今回は転倒リスクについての意外な最新情報を紹介しながら、介護予備軍にならないために基本対策や体操なども紹介していきます!
え、こんなものも?意外な転倒原因
寝たきりに繋がりかねない高齢者の転倒。日本では認知症、脳血管疾患、高齢による衰弱、などと並んで原因の一つとして注目されています。(※1)
一方で、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(以下、NEJM)にあげられた「地域に住む高齢者の転倒防止」内の報告では、高齢者の転倒リスクの原因としてアメリカでは抗うつ薬や不眠症薬などの抗精神薬の服用が原因として紹介されています。 (※2) 同報告では抗うつ薬、抗精神病薬には特に注意を払う必要があり、一部の薬とアルコール飲料の飲み合わせについても転倒のリスクを高めると紹介されています。
転倒リスクを高めるサルコペニア、フレイルって?
高齢者の健康リスクとして注目されている症状では「サルコペニア」と「フレイル」が有名です。
▶「サルコペニア」
サルコペニアとは「筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態」を示す言葉で、高齢者の身体機能障害や転倒のリスク因子になり得るとされています。(※3) 詳しい内容はこちらから
「サルコペニアとは?」withコロナで悪化させないために、管理栄養士がわかりやすく解説!
▶「フレイル」
フレイルは一言で言うと「虚弱」です。虚弱とは「加齢とともに身体の活力とされる筋力、認知機能などが低下し、健康障害を起こしやすくなった状態」のことです。フレイルは適切な対応をすれば生活機能の維持向上が可能なので、最近疲れやすいという方はかかりつけ医にご相談ください。(※4)
この2つは転倒リスクの原因としても注目度がとても高いので、最近よくつまづくという方はこちらのサルコペニアテストをお試しください!社員3名で実際に挑戦した臨場感ある記事になっています!
管理栄養士主催 家で簡単にできる筋肉量チェック会をためしてみた①
実は高齢者だけじゃない、若者も含まれる転倒リスク
これまでにあげた転倒リスク、実は高齢者だけの問題ではありません。若者は回復力も高齢者に比べ高いのですが、同じリスクを抱えているのがダイエット意識が高い若年層女性です。
原因としては過度なダイエットによる筋力不足からのサルコペニアが問題視されています。過度なダイエットは筋力だけでなく骨と内臓などの体組成にも影響を与え、骨折の回復などにも影響が出ると考えられています。まずはBMIなどから今の自分にダイエットが必要かどうか確認してみましょう。(※5)
ダイエットを意識されている方は食べるものは制限せずに、食事の時間だけ見直すこちらがおすすめかもしれません。
16時間断食を実践!メリット、デメリット、結果をまとめました
突然の転倒に備える「整頓」と「転倒リスクに備える体操」
転倒は突然起きるものです。突然のことに対して備えることは難しいですよね。ここでは、最近こもりがちな生活を送っている方に向けた「身の回りの整頓」と、これから転倒リスクを抱えやすくなる50代後半の方に向けた「転倒リスクに備える体操」の2つの点から生活の中で転倒に備える方法について紹介します。
▶身の回りの整頓
高齢者の転倒の多くは室内で起きています。高齢者のいるご家庭はまず事故を防ぐために下記の項目を確認してみてください。(※1)
〇階段の手すりは持ちやすく、体重をかけた際に手が滑らないか。
〇足がつまづくような段差が部屋と部屋の間にないか。
〇カーペットの下には滑り止めは付いているか。
〇足元に照明はあるか。
〇転倒時に危険となる置物が生活導線にないか。
▶転倒リスクに備える体操
転倒防止には筋トレも重要ですが、転倒リスクに備えた体操を日頃からする方は少ないのでないでしょうか?高齢者になればなるほど、咄嗟に身体を動かすことは難しくなってきます。今回は鄭氏太極拳(ていしたいきょくけん)講師でもある「矢口整骨院」市来院長が勧める中高年から始めて欲しい、転倒リスクに備える体操を紹介します。
※始める前には必ず、身の回りに危険物がないか十分に確認してください。床が固い方は布団や毛布などをしいて下さい。※自力での起立、着席が困難な方は専門のかかりつけ医に運動法を伺ってみてください。
▼「立った姿勢から」
①立った姿勢から両ひざをついてから両手も床について四つん這いになります。バランスが取れない方は壁などに手をつきながら行いましょう。
②そのまま右腕の肘をついて、左の肘も床につけてうつぶせになります。③うつぶせの状態から四つん這いになり、両手で上半身を支えながら体を起こし、立ち上がります。
①同様、バランスがとりにくい方は壁の横などで行いましょう。
▼「座った姿勢から」
①背中の方にクッションや布団などを用意します。
②地面におしりを付けた状態で座り、利き手を頭の後ろにつけます。
③そのまま後ろに倒れこみながら頭につけた手を地面に付けます。
④起き上がるときは、腰を痛めやすいので、仰向けの状態からから横に転がり、うつぶせになってから腕をついて四つん這いになります。それからゆっくりと姿勢を起こしましょう。
転倒防止には食事から
原因から対策、体操と紹介してきましたが、転倒防止のために身体を整えるには食事による栄養補給が不可欠です。特に、高齢になるほど衰えやすい筋肉の維持にはタンパク質がおすすめします。
タンパク質を多く含む食品では大きく動物性と植物性に分けることができます。動物性タンパク質は飽和脂肪酸やコレステロールが豊富です。一方、植物性タンパク質は低カロリーなため、動物性、植物性共にバランスよく摂ることがおすすめです。
例えば朝は豆腐、豆乳などで植物性タンパク質を、昼と夜には魚かお肉などの動物性食品とバランスを見て食事に取り入れて、筋肉の維持を行っていきましょう
まとめ
転倒は高齢者だけでなく、若い方にも起きます。しかし高齢になればなるほどサルコペニアやフレイルなどの症状から寝たきりなどに繋がりやすく、咄嗟に反応することが難しくなっていきます。
家で過ごす機会が多くなるのであれば身の回りの整理をおすすめします。これから転倒リスクが高まる中高年の方はぜひ毎日の運動や今回紹介した体操を試してみてくださいね。適切な栄養摂取と適度な運動で突然の転倒リスクに備えていきましょう!運動面に加えて「免疫力」について気になる方はこちらの記事も読んでみてくださいね。
これさえ読めばわかる「免疫力 とは?」の疑問を分かりやすく解説!
監修:医学博士 久保明
管理栄養士 岡部遥
協力:矢口整骨院 市来智彦院長
参考文献:
※1 「みんなで知ろう、防ごう、高齢者の事故①」2019.9.12 消費者庁
※2 「地域に住む高齢者の転倒防止」 David A. Ganz, M.D., Ph.D., and Nancy K. Latham, P.T., Ph.D. NEJM. February 20, 2020
※3 「サルコペニア」 e-ヘルスネット 厚生労働省
※4 「基本チェックリストとフレイル」 J-stage佐竹 昭介2018
※5 「身体組成」 e-ヘルスネット 厚生労働省
玄米と和食が好きな栄養士。2019年にドリコスへ参画。阪急やそごう・西武などの大手百貨店でオーダーメイドサプリメントサーバー販売会を実施。食生活のアドバイスも交えた接客を約300名以上に行う。生活の中でふとした時に湧いてくる疑問について投稿していきます。